第18回世界コンピュータ将棋選手権 1次予選 5回戦

5回戦の前に、もう一度時間監視を見直してみました。
制限時間の一定割合を消費すると、次の反復深化に行かないようにしているのですが、そのしきい値を下げて、時間を節約するように修正。
4回戦では、しきい値が高すぎてこの機能があまり働かなかったためです。


5回戦の相手は「せくしいあいちゃん」。
対局者が奇数になったときに参加する招待プログラムだそうです。
対戦相手を書いた紙が私の手元に届く前に、作者の方々が挨拶に来られ、
「弱いんで負けると思います」と謙遜されていました。


対局の方は、7手目に先手あいちゃんが▲58飛と振ってきます。
後手ym将棋は8手目に△34歩と角道を開けた後、またまた△33桂と跳ねてしまいました。勝てないのに好きな戦法のようです。


両者ともこの後攻め手を繰り出さず、黙々と駒組みを進めます。ym将棋はいつのまにか穴熊もどきに囲い、今度はちゃんと壁を作りました。
37手目に、あいちゃんが5筋に振った飛車を6筋に動かし、次の38手目で最初に駒がぶつかりました。
ym将棋がせっかく作った囲いをくずし、△13角と、変なところから角交換を迫ります。
図は38手目、△13角まで。

後手の持駒:なし
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
                                                        • +
v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v金v玉
・v飛 ・v銀 ・v銀v金 ・v香
v歩 ・v歩 ・v歩v歩v桂v歩v角
・ ・ ・v歩 ・ ・v歩 ・v歩
・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ ・ 歩
・ 歩 ・ 銀 ・ 歩 歩 歩 ・
香 ・ 金 角 ・ 銀 金 玉 ・
・ 桂 ・ 飛 ・ ・ ・ 桂 香
                                                        • +
先手の持駒:なし 先手:ai2006 後手:ymshogi

あいちゃんが▲13同角成△同香と交換に応じた後、不思議な動きを始めました。
69にある飛車を、▲59飛→▲69飛→▲59飛…と往復運動を始めたのです。
ym将棋はその1手ごとに1分程度考え続け、攻める手も思いつかないまま貴重な10分を消費してしまいます。
飛車が5往復半した後でやっと▲39金と違う手が返ってきました。
その後もう一度▲69飛と戻し、63手目に突然▲42角打と攻めてきました。
図は63手目、▲42角打まで。

後手の持駒:なし
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
                                                        • +
v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v金v玉
・v飛 ・ ・v銀 角 ・v金 ・
・ ・v銀v角v歩 ・v桂v歩v香
v歩 ・v歩v歩 ・v歩v歩 ・v歩
・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ ・ 歩
・ 歩 ・ 銀 ・ 歩 歩 歩 ・
香 ・ 金 ・ ・ 銀 ・ 玉 ・
・ 桂 ・ 飛 ・ ・ 金 桂 香
                                                        • +
先手の持駒:なし 後手番 先手:ai2006 後手:ymshogi

この後は、次の▲51角成を防ぐため(たぶん)△62銀と引いたあと、何回目かの▲59飛に対し、21にいた金を△32金上と上げ、角を取りに行きます。
何とここまで全て1秒指しだったあいちゃんは、初めて4秒考えて仕方なく?▲33角成、これに△同金右で桂と角の交換になりました。
評価値も、それまでわずかなマイナス(後手有利)だったのが、-1000を指して、後手優勢と判断しています。
ただ、先手陣に角を打ちこめる隙がないのがつらいところ。


数手進んで72手目、ym将棋が△86歩と仕掛けました。
図は72手目、△86歩まで。

後手の持駒:角
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
                                                        • +
v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・v玉
・v飛 ・v銀v銀 ・ ・v金 ・
・ ・ ・v角v歩 ・v金v歩v香
v歩 ・v歩v歩 ・v歩 ・ ・v歩
・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・
歩v歩 歩 歩 歩 ・ ・ ・ 歩
・ 歩 桂 銀 ・ 歩 歩 歩 ・
香 ・ 金 ・ ・ 銀 金 玉 ・
・ ・ ・ ・ 飛 ・ ・ 桂 香
                                                        • +
先手の持駒:桂 先手:ai2006 後手:ymshogi

△86歩▲同歩△同飛で歩を交換した後、▲39王△87角打という読み筋でした。
最後の△87角打はおそらく、静止探索を入れていない副作用で、78の金と98の香の両取りになっていて評価が高くなっていると思われます。
もう1手読めば、▲87同金△同飛と、角と金の交換になってしまうのが分かるはずなんですが。


実戦では△86歩▲同歩の後、△同飛と取らず、△54角としました。
読み筋は、△54角▲18香△86飛▲19王△85歩打▲83桂打。
相手は穴熊に潜るのが最善と考えているようです。
△54角の意味はよく分りません。先手が▲75歩と上がってくれれば、すかさず△98角成で香が取れるので、▲75歩を防ぎたいのでしょうか。


△54角に対し、あいちゃんは▲55歩。ym将棋は△43角と引きました。
その次の、あいちゃんの▲56桂打で、盤面は一気に荒れ模様に。
図は77手目、▲56桂打まで。

後手の持駒:角
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
                                                        • +
v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・v玉
・v飛 ・v銀v銀 ・ ・v金 ・
・ ・ ・ ・v歩v角v金v歩v香
v歩 ・v歩v歩 ・v歩 ・ ・v歩
・ ・ ・ ・ 歩 ・v歩 ・ ・
歩 歩 歩 歩 桂 ・ ・ ・ 歩
・ ・ 桂 銀 ・ 歩 歩 歩 ・
香 ・ 金 ・ ・ 銀 金 玉 ・
・ ・ ・ ・ 飛 ・ ・ 桂 香
                                                        • +
先手の持駒:歩 後手番 先手:ai2006 後手:ymshogi

ym将棋の残り時間は既に5分を切り、この手は21秒(予測読み含む)で思考を打ち切っています。最初に書いた、新しい反復に入らない機能が働いて、5手読みになっています。
読み筋は、△75歩▲64桂△76歩▲52桂成△63角打、で評価値は-1600くらいの後手優勢。
55に桂を打たれて、▲64桂〜▲52桂成は避けられないので、その間に76まで進出してしまおうという魂胆のようです。
さっき意味のわからなかった44の角が利いていて、先手は△75歩に▲同歩とできません。


実戦では△75歩の後、あいちゃんが▲85桂と跳ねてきました。
ym将棋は無視して予定通り△76歩と進め、▲54歩と突かれると、△84飛。
図は 82 手目、△84飛まで。

後手の持駒:角 歩
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
                                                        • +
v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・v玉
・ ・ ・v銀v銀 ・ ・v金 ・
・ ・ ・ ・v歩v角v金v歩v香
v歩v飛 ・v歩 歩v歩 ・ ・v歩
・ 桂 ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・
歩 歩v歩 歩 桂 ・ ・ ・ 歩
・ ・ ・ 銀 ・ 歩 歩 歩 ・
香 ・ 金 ・ ・ 銀 金 玉 ・
・ ・ ・ ・ 飛 ・ ・ 桂 香
                                                        • +
先手の持駒:歩 先手:ai2006 後手:ymshogi

読み筋は、△84飛▲76銀△54角▲67金△63角▲39王、で評価値は-1200くらい。変わらず後手優勢の判断でした。
もう残り時間が 2 分半を切り、5 反復目の途中で打ち切っています。


実戦では▲76銀△54角の後、▲75銀とさらに攻めてきました。
以後激しい攻め合いになり、評価値は乱高下していきます。
図は120手目、▲22馬に対し△同玉と取ったところまで。

後手の持駒:飛 角 銀 桂三 歩二
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
                                                        • +
v香 ・ 角 ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・v飛 ・ ・ ・ ・v玉 ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩v香
v歩 ・ ・v銀v歩v歩 ・ ・v歩
・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・
歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩
・ ・ 金 ・ ・ 歩 歩 歩 ・
香 ・ ・ ・ ・ 銀 金 玉 ・
vと ・ ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香
                                                        • +
先手の持駒:金二 銀 歩三 先手:ai2006 後手:ymshogi

後手ym将棋の残り時間は18秒しかなく、この直前から1秒将棋に入っています。
場内にも「ym将棋の残り時間あと何秒」というアナウンスが流れ、注目を集めてしまいました。
後手は王様の周りに守り駒がほとんどおらず、先手の方はまだ囲いが残っていて、しかも前半ずっと1秒将棋だったために、まだ持ち時間が10分くらい残っています。
これは詰まされるかと覚悟しましたが、あいちゃんがどんどん駒を切って攻めてきたので、ym将棋はべたべたと王様の周りに駒を貼り付け、ついには金銀3枚の囲いを作ってしまいました。
図は155手目、▲74角打まで。

後手の持駒:角 桂三 歩三
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
                                                        • +
・ ・ ・ ・ 龍 ・ ・v金 ・
v香 ・ ・ ・ ・ ・v銀v金v玉
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩v香
v歩 ・ 角 ・v歩 ・ ・ ・v歩
・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・
歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩
・ ・ 金 ・ ・ 歩 歩 歩 ・
香 ・ 歩 ・ ・ 銀 金 玉 ・
vと ・v飛 ・ ・ ・ ・ 桂 香
                                                        • +
先手の持駒:銀二 歩二 後手番 先手:ai2006 後手:ymshogi

この時点でついに持ち時間が切れ、無念の切れ負けとなりました。
あいちゃんも終盤は時間を使っていたので、最後は残り3分を切っていました。


中盤、あいちゃんの飛車の往復運動に惑わされて?、駒の数では劣っていなかったにもかかわらず、有効な攻め手が見つからなかったのが敗因かもしれません。
相手が攻めてこない場合、自分から攻めるような評価関数にはなっていないのだと思われます。
また、時間配分にも少し問題があるようです。
最後の方は、ご自分の試合が終わったなのはの作者さんが、私の席で観戦されていたので、時間配分の話をしました。
「(ym将棋の時間配分は)150手も指すことを想定してないんです。たいていそれまでに負けてしまうので」
というと、
「200手くらいいくことはありますよ」
と言われてしまいました。実際に150手以上指したのだから、考え直した方がよさそうです。